春の七草は食べる、秋の七草は見る。万葉集から続く七つの花を探しに

春の七草はお粥にして食べますが、秋の七草を食べたという話は聞きません。それもそのはずで、秋の七草は「見て楽しむ」ための七つです。1月7日の七草粥のような行事もなく、決まった日もない。ただ、秋の野に咲く花を数えた歌が千三百年前にあって、それがそのまま今日まで残っています。
この記事では、秋の七草がどう決まったのか、七つの花をどう見分けるのか、そしてどこへ行けば実物に会えるのかをまとめました。名前を知っていると、いつもの散歩道の草むらが少し違って見えてきます。
七草を決めたのは、千三百年前の一人の歌人
秋の七草の出どころは、万葉集におさめられた山上憶良の二首です。一首目で「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」と、指を折って数えたら七つあった、と詠みます。そして二首目で、その七つを並べていきます。
「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花」。これが秋の七草の全てです。誰かが選定委員会を開いて決めたわけではなく、一人の歌人が野を見て数えたものが、そのまま千三百年生き延びたことになります。
最後の「朝顔の花」は、いま私たちが夏に育てるアサガオではなく、キキョウを指すと考えられています。ほかにムクゲやヒルガオとする説もありますが、キキョウ説が広く採られています。
七つの花、それぞれの見分け方
1. ハギ(萩)
枝がしなだれて、小さな蝶のような花を無数につけます。色は赤紫か白。「萩」という字が草かんむりに秋と書くとおり、秋を代表する花です。かつては枝を束ねて垣根にしたり、屋根を葺いたりと生活のなかで使われてきました。見頃は9月ごろ。
2. ススキ(尾花)
歌のなかでは「尾花」と呼ばれています。動物の尾のように穂が垂れる姿からの呼び名です。七草のなかでは群を抜いて見つけやすく、河川敷や土手、空き地で普通に出会えます。かつては屋根材として使われた、暮らしに近い草でもあります。見頃は8月末から10月ごろ。
3. クズ(葛)
つる草で、ほかの木や柵に絡みつきながら広がります。赤紫の花が房になって咲きますが、葉が茂って隠れがちなので、花より先に「大きな葉に覆われた斜面」として目に入ることが多いはずです。根から取れるでんぷんが葛粉で、葛餅や葛湯の原料になります。見頃は8月から9月ごろ。
4. ナデシコ(撫子)
花びらの先が細かく裂けて、フリルのような姿になります。「撫でたくなるほど愛らしい子」が名前の由来とされ、日本女性を指す「大和撫子」の語源にもなりました。園芸品種は初夏から咲きますが、野生のカワラナデシコは夏から秋にかけて咲きます。見頃は7月から9月ごろ。
5. オミナエシ(女郎花)
細い茎の先に、小さな黄色い花が傘のように集まって咲きます。遠目には黄色い霞のように見える花です。同じ仲間に白い花をつけるオトコエシ(男郎花)があり、並べて植えられていることもあります。見頃は8月から10月ごろ。
6. フジバカマ(藤袴)
淡い紫の小花が集まって咲きます。乾かすと桜餅のような甘い香りが立つのが特徴で、かつては香り袋にも使われました。七草のなかでは出会いにくい部類で、野生のものは各地で数を減らしています。見頃は8月から9月ごろ。
7. キキョウ(桔梗)
星形の紫の花。つぼみのうちは風船のようにふくらんでいて、開く前と後で印象が変わります。家紋の意匠にも使われてきた、姿の整った花です。園芸品種は身近ですが、野生のキキョウは環境省のレッドリストで準絶滅危惧に分類されています。減少の理由に挙げられているのが、採りすぎによる圧迫です。見頃は6月から9月ごろ。
七草に会いに行く
向島百花園(東京都墨田区)
七つを一度に見たいなら、まずここです。江戸時代からの花園で、東京都公園協会が「山上憶良の秋の七草の地植えが楽しめます」と紹介しています。名物はハギのトンネル。竹の柵にハギを沿わせて仕立てた園路で、9月には全長約30メートルが花のトンネルになります。入園料150円という点でも訪れやすい庭園です。
- 所在地:東京都墨田区東向島3-18-3
- アクセス:東武スカイツリーライン「東向島駅」から徒歩約8分、京成押上線「京成曳舟駅」から徒歩約13分
- 開園時間:9:00〜17:00(入園は16:30まで)
- 入園料:一般150円、65歳以上70円(小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料)
- 休園日:年末年始(12月29日〜1月3日)
- 注意:駐車場はありません
身近な場所でも、三つは見つかります
七草のうちススキ・クズ・ハギの三つは、特別な場所へ行かなくても出会えます。ススキは河川敷や土手で。クズは緑地の縁のほか、電車や車の窓から、法面を覆う大きな葉の茂みとして目に入ります。ハギは公園の植え込みによく使われています。
逆に、ナデシコ・オミナエシ・フジバカマ・キキョウの四つは、野生のものに出会う機会がぐっと減りました。植物園や庭園で見るのが確実です。同じ七草でも、身近さがはっきり分かれているのが今の状況といえます。
そして、見つけても採らずにその場で楽しんでください。キキョウが数を減らした理由のひとつが、採りすぎによる圧迫だと環境省の資料に挙げられています。庭園や植物園の花に触れるのも避けましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 秋の七草を食べる行事はありますか?
ありません。春の七草には1月7日に七草粥を食べる習わしがありますが、秋の七草は鑑賞するためのもので、決まった日も行事もありません。クズの根から葛粉が作られるように、食用になるものもありますが、七草をまとめて食べる風習は伝わっていません。
Q. 「朝顔の花」はアサガオではないのですか?
いまのアサガオとは別と考えられています。キキョウを指すという説が広く採られていますが、ムクゲやヒルガオとする説もあります。歌が詠まれた当時と現在で、同じ名前が違う植物を指すことは珍しくありません。
Q. いつごろ行けば七つとも見られますか?
それぞれ花期が少しずつ違うため、七つが完全に揃う日を狙うのは簡単ではありません。重なりが多いのは9月ごろです。ただし花の咲き方はその年の気候に左右されるので、出かける前に園の開花情報を確認することをおすすめします。
まとめ
秋の七草は、覚えたところで何かの役に立つわけではありません。それでも、名前を知っていると散歩の解像度が上がります。土手を覆うススキが「尾花」に見え、公園の植え込みのハギが千三百年前に数えられた七つのうちの一つに見えてくる。そういう楽しみ方ができる七つです。
ミドリハッケンでは、関東の公園・庭園の詳細情報を掲載しています。秋の花を探しに行くときは、ぜひスポット検索を使ってみてください。